この記事ではTRAKTORでオーディオ再生において可能な限り最高の音質を実現するために、出力レベルを設定する方法に関する情報を提供します。本記事は4つの章に別れています:
1. バックグラウンド情報
アナログミキシングとは対照的に、DJソフトウェアはオーディオ信号をデジタル処理でミキシングします。これは、出力レベル(チャンネルボリュームフェーダー、チャンネルゲイン、メイン出力)の取り扱いに関して重要な意味を持ちます。
ヘッドルーム
デジタルとアナログ両方の信号処理においてヘッドルームとは、信号が劣化または歪み(クリッピングと呼ばれます、下記をご参照ください)が発生する前にオーディオミキサーの基準レベルを超えることができる量として定義されます。ヘッドルームの量はクリッピングが発生しない安全範囲内に留まる一方で、基準レベルを超えることを可能にします。TRAKTORのソフトウェアミキサーでは、2章、3章ならびに4章で解説するように、お好みのヘッドルームを設定することが可能です。
クリッピング
オーディオクリッピングとは、オーディオ信号がオーディオシステムの処理能力を超えてオーバードライブされたとき(すなわち、ヘッドルームを超えたとき)に発生する望ましくない歪みです。アナログクリッピングでは元の信号を大きく損なうことなく出力レベルを大幅に上げることができますが、デジタル(ソフトウェアベース)クリッピングでは信号が顕著にオーバードライブされてしまいます。TRAKTORのデジタルオーディオ処理では、ソフトウェアミキサーのすべてのコンポーネントが、クリッピングが発生するポイントであるヘッドルームレベルの低下に繋がってしまいます。したがって、TRAKTORでEQ、エフェクトやデッキを使用/追加すると、ヘッドルームレベルを超えるメイン出力信号のオーバードライブが発生しやすくなりますのでご注意ください。次のセクションでは、デジタルクリッピングを回避するためにこれらのパラメータを設定する方法を解説します。
リミッター
リミッターは、あらかじめ設定されたレベルを超えるシグナルピークを減衰させます。リミッターを使用すると、ダイナミックレンジを減少させる代わりにデジタルクリッピングを回避できます。2章と3章では、TRAKTORで最高の音質を得るためのリミッター設定方法について解説します。
ゲインレベルの設定
TRAKTORソフトウェアミキサーの各チャンネルには、対応するデッキからのオーディオ信号を増幅させるGAINコントロールが備わっています。
ゲインコントロールはトラックのレベルを合わせるために使用されます。クリッピングを回避するために、ゲイン数値を監視することが重要です。各ミキサーチャンネルの信号レベルは、音量フェーダーの青いレベルメーターで示されます。TRAKTORのメインアウトプットレベル(再生しているすべてのデッキ/ループレコーダーの合計)は、TRAKTORのメイン画面上部のMAINレベルメーターによって視覚的に表示されます。レベルピークがメインレベルメーターのオレンジの領域(ヘッドルームの範囲)に達するように、個々のゲインコントロールを設定することが非常に重要です。
ただし、赤いエリアまでは到達しないようにしてください。(クリッッピングが発生します)
次のセクションでは、使用するミキシングモードの種類に応じて、出力レベルを処理する方法を解説します。
2. Internal Mixing用のTRAKTOR設定
TRAKTORのPreferences > Output RoutingにあるMixing ModeでInternalを選択する事により、Internal Mixingの設定を行う事が可能です。
Internal Mixingモードでは、TRAKTORソフトウェアは2つの個別のオーディオ出力を提供します:
- Output Master:この出力信号は、再生している4つのデッキやループレコーダー、あるいはその両方の合計です。マスター出力信号は通常、PCやTRAKTOR KONTROLデバイスのMAIN RCA(左右)出力端子を経由して、スピーカーあるいはクラブミキサーの入力チャンネル(ラインレベル)に物理的に接続されます。
- Output Monitor:これはモニタリング(CUE)信号です。通常はヘッドフォンが物理的に接続され、ソフトウェアミキサー上の対応するデッキのCueボタンを押すことで有効となります。
下図の例では、TRAKTOR KONTROL Z1オーディオインターフェースが、Internal Mixingモードの二つの出力チャンネルに割り当てられています。
Internal Mixingモードでは、各デッキからのデジタルオーディオ信号がTRAKTORのソフトウェアミキサーによって完全に処理、制御されます。下記では、Internal MixingモードにTRAKTORを最適化する際に考慮すべき点について解説します:
オーディオインターフェース
Internal Mixing設定では、一般的にはRCAタイプのステレオ(左右の出力)とミニジャックもしくは1/4ジャックの出力端子2つの(ステレオ)出力チャンネルを備えたオーディオインターフェースが必要です。ほとんどのケースで、TRAKTORのMaster出力はRCA出力に割当てられ、Monitor出力はジャックに割当てられます。 オーディオインターフェースの例としては、TRAKTOR KONTROL S4やTRAKTOR KONTOL Z1などが挙げられます。このハードウェア出力のデザインは、TRAKTOR READYデバイスでも見られるように、多くのサードパーティ製オーディオインターフェース/コントローラでも共通です。
Mixer Layout
はじめにLayout SelectorからMixerレイアウトを選択し、TRAKTOR内蔵ミキサーすべてのコンポーネントを表示してください。
さらにTRAKTORのPreferences > MixerでMixer Layoutのすべての追加コンポーネントを有効にします。
Main出力レベル
チャンネルのGainコントロールを調整する前に、MAIN出力ノブをダブルクリックして0.0 dBに設定して下さい。
このポジションはDJセッションの間、固定しておいてください。メイン出力でクリッピングが発生する場合(音質に異常が生じる、あるいはMAINレベルメーターに示される)は、対応するチャンネルのGainコントロールを使用してレベルを下げてください。
Mixer Level設定
これらの設定は、TRAKTORのPreferences > MixerにあるLevelでご確認いただけます。
Autogain
TRAKTORはトラックの解析中にAutogain値を決定します。Autogainが有効の場合、トラックがロードされているデッキに対応するチャンネルゲインは、異なる曲をミックスする際、出力レベルを均一にするために、Autogainで決定されたゲイン量に自動的に増幅あるいは低減されます。ただし、ある条件下においてはこれが、望ましくないクリッピングやマスター出力の制限につながり、結果として歪みやダイナミックレンジの不足を生じさせる可能性があるため、Enable Autogainオプションは無効にした上で、Gainレベルを使用して手動でレベルを調整する事をお勧めします。
Limiter
クリッピングを回避するために、Enable Limiterオプションを有効にすることをお勧めします。リミッターが有効の状態でメイン出力がオーバードライブした場合、若干ダイナミックレンジが失われます(パンチの欠如として聴覚できます)が、リミッターが無効の場合は音が顕著に歪んでしまいます。
Headroom
TRAKTOR内蔵ミキサーのデジタルヘッドルームは、ご使用のミキシング設定に合わせて慎重に設定する必要があります。目安として、デジタルオーディオバスに追加するコンポーネント(デッキ、エフェクトなど)が多いほど、ヘッドルームの範囲を広げる必要があります。一般的なセットアップごとに以下の値を選択することをお勧めします:
- -3dB:シンプルな2デッキ(A-B)設定
- -6dB:2デッキ(A-B)設定と頻繁なエフェクトとEQやフィルターの使用
- -9dB:2デッキ以上と頻繁なエフェクトとEQやフィルターの使用
- -13dB:Remix Decksを含む4デッキと頻繁なエフェクトとEQやフィルターの使用
注意:Master出力をクラブのハードウェアミキサーに接続している場合は、ミキサーのチャンネルゲイン(もしくはトリム)を同じ量に増幅させて、ヘッドルームの減少を補ってください。例えばヘッドルームの値を-6dBに設定している場合、ミキサーチャンネルのゲインレベルを+6dBに増幅させます。
3. External Mixing用のTRAKTOR設定
TRAKTORのPreferences > Output RoutingにあるMixing ModeでExternalを選択する事により、External Mixing用の設定を行う事が可能です。
External Mixingモードでは、TRAKTORソフトウェアの各デッキのオーディオ再生を個別に出力させることが可能です。これによりオーディオ·インターフェースの物理的な(主にRCA)出力を介してハードウェアクラブミキサーの各入力チャンネルに各デッキのオーディオ信号を個別に送信することが可能です。 この場合、ハードウェアミキサーの各チャンネル上でオーディオ信号を個別にイコライズ、ゲイン調整が出来るため、ヘッドルームを広げる必要はありません。
注意:クリッピングが発生するレベル(MAINレベルメータが赤いエリアに達する状態、1章をご参照ください)の設定はお勧めしませんが、External Mixingモードにおいては即座に歪みを生じさせることなく、信号をオーバードライブさせることが可能です。
下図の例ではOutput Routingメニューの設定で、TRAKTORの各デッキがTRAKTOR AUDIO 10オーディオインターフェースの各出力チャンネルに割当てられています。
注意:External Mixingモードにおいてモニタリングはハードウェアクラブミキサーで行うため、Monitor出力の設定は不要です。
また、レベルやゲイン、EQなどの調整は、すべてアナログミキサーでコントロールする事になるため、TRAKTORをExternal Mixingモードに設定した場合、外部ミキサーでコントロールするクロスフェーダーやチャンネルフェーダーはグレイアウトします。
ただし、その状態であってもソフトウェアミキサーのコンポーネント(EQ、ゲイン、フィルターなど)は、オーディオデータがオーディオインターフェースで処理される前の音質と出力レベルに影響します。下記ではExternal MixingモードにTRAKTORを最適化する際、考慮すべき点について解説します:
オーディオインターフェース
External Mixing設定では最低でも2つの(ステレオ)出力チャンネルを備えたオーディオインターフェースを必要とします。大抵はRCAステレオ(左右出力)のタイプであり、これらの出力チャンネルはTRAKTORの各デッキに割当てられます。外部ミキサー用に設計されたオーディオインターフェースの例としては、TRAKTOR AUDIO 10(4つのRCAステレオチャンネル+一つのメインRCAステレオ/ジャックチャンネル)とTRAKTOR AUDIO 6(2つのRCAステレオチャンネル+一つのメインRCAステレオ/ジャックチャンネル)が挙げられます。
Mixer Layout
はじめにソフトウェアミキサーのコンポーネントが無効となり、中央の位置に設定されている事をご確認ください。これでオーディオ信号が影響を受けずに通過します。
注意:TRAKTORのPreferences > Loadingで、Reset all mixer controls when loading tracksオプションを有効にすることをお勧めします。 これにより、デッキにトラックをロードするたびに、ソフトウェアミキサーのすべてのコンポーネントが中央(ゼロ)の位置にリセットされます。
さらに、ハードウェアクラブミキサーでのミックスに集中出来るように、メイン画面のレイアウトをEssentialかExtendedに切り替えて、ソフトウェアミキサーコンポーネントを非表示にすることをお勧めします。
最後に、TRAKTORのPreferences > MixerにあるEQ/Filter SelectionのEQ Typeでは、元のオーディオ信号に影響を与えないEQモデルであるClassicに設定します。Z ISOタイプに関しては、ノブが中央の位置にあっても元の音質を変化させるため選択しない下さい。
Main Output Level
External Mixingモードにおいては、デジタルオーディオデータはソフトウェアミキサーからオーディオインターフェースを通じて出力された後、オーディオ信号レベルがハードウェアクラブミキサーで処理されますが、ソフトウェアのメイン出力にクリッピングが生じないよう、ソフトウェアのチャンネルゲインを調整することをお勧めします。MAIN出力ノブをダブルクリックして、0.0 dBに設定してください。
このポジションはDJセッションの間、固定しておいてください。外部アナログミックスにおいて聴覚できない場合でも、MAINレベルメータがクリッピングの発生を示す場合は、該当するソフトウェアチャンネルのゲインコントロールを使用してレベルを下げてください。
Mixer Level設定
これらの設定は、TRAKTORのPreferences > MixerにあるLevelでご確認いただけます。
Autogain
TRAKTORはトラックの解析中にAutogain値を決定します。Autogainが有効の場合、トラックがロードされているデッキに対応するチャンネルゲインは、異なる曲をミックスする際、出力レベルを均一にするために、Autogainで決定されたゲイン量に自動的に増幅あるいは低減されます。ただし、ある条件下においてはこれが、望ましくないクリッピングやマスター出力の制限につながり、結果として歪みやダイナミックレンジの不足を生じさせる可能性があるため、Enable Autogainオプションは無効にした上で、ハードウェアミキサーのゲイン/トリムコントロールを使用して手動でレベルを調整する事をお勧めします。必要に応じて、ソフトウェアミキサーのゲインコントロールを調整してみてもよいでしょう。
Limiter
クリッピングを回避するために、Enable Limiterオプションを有効にすることをお勧めします。リミッターが有効の状態でメイン出力がオーバードライブした場合、若干ダイナミックレンジが失われます(パンチの欠如として聴覚できます)が、リミッターが無効の場合は音が顕著に歪んでしまいます。ハードウェアミキサーのレベル処理に慣れているのであれば、リミッターを無効にして歪みの生じないポイントにオーバードライブしないように、信号レベルをモニタリングしても良いかもしれません。
Headroom
External Mixingモードにおいては、各チャンネルのヘッドルーム値は-3dBで固定となります。これで信号をオーバードライブさせる事なく、自由に複数のデッキやエフェクトを追加することが可能です。ヘッドルームの減衰を補うため、ハードウェアミキサーのチャンネルでゲイン/トリムのレベルを3dB増幅する事もできます。ただし、一部のオーディオインターフェースでは、各出力チャンネルのプリアンプが信号を増幅している場合もありますのでご注意ください。例えばTRAKTOR AUDIO 10 MK2オーディオインターフェースでは、ヘッドルームの減衰を補うために信号を2.5dB増幅させるため、ハードウェアミキサーチャンネルのゲインレベルは原則的に0dBとなります。ご使用ハードウェアミキサーやオーディオインターフェースの詳細に関しては、製品マニュアルをご参照ください。
4. TRAKTOR PRO 3での変更
Limiter
TRAKTOR PROの最新世代では、TRAKTORのマスターコントロールパネルでリミッターを直接有効/無効にすることができます。有効にするとLIMITERの文字が黄色に変わります:
さらに、黄色い線がレベルメーターに表示されます:
Limiterのスレッショルドに達すると、この線は赤に変わります:
また、TRAKTOR PRO 3では新しいリミッタータイプも導入されており、2つのタイプから選ぶことができます:
- Classic (PRO 2から知られているタイプ) は信号のわずかなデジタルディストーションを可能にします。
- Transparentは聴覚しにくい方法で信号にコンプレッサーを与えます。
これらのリミッターは以下の場所から選択可能です:
TRAKTOR Preferences > Mixer > Internal / External Mixing Mode > Limiter Type:
Internal Mixing Mode
チャンネルメーターにヘッドルームを適用する新しい機能 (Apply Headroom to Channel Meters) により、チャンネルメーターに選択したヘッドルームを視覚化することができます:
この設定を有効にすると、現在のヘッドルームはミキサーチャンネルのチャンネルメーターLEDに視覚的に反映されます。
External Mixing Mode
PreferencesのOutput RoutingページでExternal Mixing Modeを有効にすると、オーディオ信号は内部ミキサーをバイパスしてオーディオインターフェースのアウトプットに直接送信されます。以下のInternal Mixerコントロールは、それぞれのチェックボックスをオンにすることで引き続き使用できます:
- Enable Master Volume Control
- Enable EQ + GAIN
- Enable Mixer FX & Filter
- Enable Autogain
チャンネルメーターにヘッドルームを適用する新しい機能 (Apply Headroom to Channel Meters) により、チャンネルメーターで選択したヘッドルームを視覚化することができます:
この設定を有効にすると、現在のヘッドルームはミキサーチャンネルのチャンネルメーターLEDに視覚的に反映されます。